~日常の会話を音声から調べてみると~
「今日、暑いなあ」
「ちょっと買い物行ってくるわ」
「何してんの?」
「もう寝よか」
犬や猫と暮らしていると、こんなふうに話しかけることがあります。
もちろん、言葉で返事が返ってくるわけではありません。
それでも、何かを説明したり、問いかけたり、その日の出来事を話したり。
気がつけば、ごく普通に会話するように声をかけている。
個人的には、まったく話しかけないという人は、あまりいないような気がします(笑)
では実際、人は犬や猫に、どんなことを話しているのでしょうか。
2026年8月、そんな日常の中で交わされている「人とペットの会話」を、実際の生活音から調べるための新しい研究手法についての論文が発表されました。
日常の音から、犬や猫との会話を調べる
この研究で開発されたのが、「AURAL-Pet」という音声データの分類・分析方法です。
録音された短い音声を聞きながら、
犬や猫に話しかけているか。
質問しているか。
何かを指示しているか。
褒めるような言葉をかけているか。
犬や猫について、ほかの人と話しているか。
といった項目に沿って、日常のやり取りを分類していきます。
元になる音声は、「EAR(Electronically Activated Recorder)」という方法で記録されたものです。
EARは、研究参加者が身につける機器やスマートフォンのアプリを使って、日常生活の中で短い音声を断続的に記録する方法です。
たとえば、1時間のうち何度か、数十秒だけ周囲の音を録音するといった使われ方をします。
研究への参加にはもちろん本人の同意がありますが、正確にいつ録音されるかは参加者には分かりません。
そのため、
「今から犬に話しかけてください」
と指示された場面ではなく、普段の暮らしの中で自然に交わされている言葉を拾いやすいという特徴があります。
この論文は「Methods Article」と呼ばれるもので、人とペットの会話について大規模な結論を出すことよりも、こうした日常のやり取りを分析する方法を作り、その信頼性を確かめることが主な目的です。
そのうえで研究者たちは、過去に記録されていた日常生活の音声にAURAL-Petを実際に使い、人が犬や猫とどんなやり取りをしていたのかも調べています。
「おすわり」「ごはん」だけではなかった
犬や猫への声かけ、と聞くと、
「おいで」
「待って」
「ごはん食べる?」
「いい子やな」
といった言葉を思い浮かべるかもしれません。
実際、研究でも命令や指示、質問、褒めるような発話は確認されています。
けれど、それだけではありませんでした。
研究者たちは、単純なお世話や指示を超えて、人間同士の会話にも出てきそうな内容を犬や猫に話している場面も分類しています。
その中で特によく確認されたのが、
自分が今していること。
自分が考えていること。
犬や猫自身がしていること。
について話す場面でした。
たとえば、
「今からこれ片づけるからな」
「何してんの?」
「そこにおったん?」
そんなふうに、自分の行動を説明したり、目の前の犬や猫の様子を言葉にしたりする。
犬や猫と暮らしている方なら、思い当たる場面があるかもしれません。
天気の話も、買い物の話も
さらに面白いのが、犬や猫とは直接関係のない話題も出てきたことです。
研究では、天気や気温について話しかける場面が何度も確認されています。
「今日は暑いなあ」
「寒なってきたな」
といった会話でしょうか。
ほかにも「店」について話していた例があり、これからの予定について話す場面も複数確認されています。
予定の内容には、将来の予定だけでなく、病院へ行く予定について話していた例も含まれていました。
つまり人は、犬や猫に必要な指示だけをしているわけではありません。
自分がこれから何をするのか。
どこへ行くのか。
今日の天気はどうなのか。
そんなことまで、普通に話していたわけです。
これも、言われてみれば珍しいことではないですよね。
出かける前に、
「ちょっと買い物行ってくるわ」
と声をかける。
帰ってきたら、
「ただいま。暑かったわ」
と話す。
誰かに報告する必要があるわけではないのに、つい口に出している。
今回の研究では、そんな何気ない会話まで日常の音声の中から拾われていました。
犬や猫について、人同士でも話している
AURAL-Petでは、犬や猫本人に向けた言葉だけでなく、犬や猫について人同士で話している場面も分類しています。
「今日あんまりごはん食べてないな」
「さっきずっと寝てたで」
「またあそこに入ってるわ」
そんな会話も、犬や猫と暮らしている家庭ではごく普通に交わされていると思います。
本人に話しかける。
本人のことを誰かと話す。
その両方が、普段の暮らしの中に自然に混ざっている。
数字そのものより、今回の研究で面白いのは、むしろそういうところなのかもしれません。
話しかけ方には、かなり個人差がある
もちろん、誰もが同じように犬や猫へ話しかけているわけではありません。
今回の研究でも、声をかける頻度や内容にはかなり大きな個人差が確認されています。
よく話しかける人もいれば、必要なときだけ声をかける人もいる。
短い言葉が多い人もいれば、人に話すようにいろいろ説明する人もいる。
だからといって、どちらが良い、悪いという話ではありません。
今回の研究は、
「たくさん話しかけるほど絆が深い」
「犬や猫に話しかけると健康に良い」
といったことを調べたものではありません。
また、人が話していた内容を犬や猫がどこまで理解していたのかについても、この研究からは分かりません。
あくまで今回見えてきたのは、
人が普段の暮らしの中で、犬や猫にどんな言葉を向けているのか。
その一端です。
普段は気にも留めない会話
今回の研究を見ていると、
「犬や猫に話しかける」
という行動は、少し不思議でもあります。
返事が言葉で返ってくるわけではありません。
それでも、
自分の行動を説明する。
相手の行動について尋ねる。
天気の話をする。
買い物やこれからの予定を話す。
そういうことを、私たちはかなり自然にしています。
特別に「会話しよう」と思っているわけでもない。
たぶん、普段はそれほど意識すらしていない。
だからこそ、日常生活の音を実際に録音して、その中身をひとつずつ整理してみると、
「ああ、こんなことまで話しているんだ」
という姿が見えてきます。
研究としては、AURAL-Petという新しい分析方法を作ることが中心の論文です。
でも、その方法を実際の日常生活に使ってみたことで、私たちが普段あまり気に留めていない、人と犬猫とのちょっと面白い関係も見えてきました。
さて、皆さんは今日、あの子に何を話しかけましたか?
