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それ、遊び? それとも喧嘩?

現在、ミルクボランティアとして4匹の子猫を預かっています。
毎日繰り広げられるのは、なかなか激しい取っ組み合い。飛びかかる、噛みつく、後ろ足で蹴り合う……。見ているこちらが、思わず心配になるほどの勢いです。

もちろん、子猫同士がじゃれ合って遊ぶことは珍しくありません。
でも、あれほど激しくやり合っていて、本当に楽しいのでしょうか。それとも、ときには本気の喧嘩になっているのでしょうか。
実は、この「遊びと喧嘩の境界線」を科学的に調べた研究があります。

取っ組み合いは、喧嘩とは限らない

2023年、学術誌『Scientific Reports』に、猫同士の遊びと喧嘩を分析した研究が発表されました。
研究チームが調べたのは、飼い主から提供された動画やYouTubeに投稿された動画に映る、105組、計210匹の猫たちです。

取っ組み合い、追いかけっこ、鳴き声などの行動を分析した結果、猫同士のやり取りは大きく3つのタイプに分けられました。

  • 遊びに近い行動
  • 闘争的な行動
  • 遊びと闘争的な行動が混在する、中間的な状態

興味深いのは、激しい取っ組み合いが、むしろ遊びに近い行動と強く関連していたことです。
一方、鳴き声を伴うやり取りや追いかける行動は、闘争的な状態と関連していました。
つまり、猫が噛み合ったり、転げ回ったりしているからといって、それだけで喧嘩とは判断できないのです。

そして、もうひとつ面白いのが「中間的な状態」の存在です。
例えば、一方はまだ遊びたいのに、もう一方はそろそろやめたくなっている。
そんなとき、両者の意図が食い違い、遊びの中に緊張が生まれることもあるのではないか、と研究者たちは考えています。
ただし、この研究は動画に映った行動を分析したもので、猫の気持ちを直接確かめたわけではありません。
それでも、猫同士の関係は「仲良く遊んでいる」か「本気で喧嘩している」かの二択ではない、という見方は、なかなか興味深いものです。

子猫たちは、遊びながら何を学んでいる?

そもそも、子猫たちはどうして、あんなに激しくじゃれ合うのでしょうか。

猫の社会的な遊びは、生後4週頃から見られるようになり、成長とともに活発になります。
追いかける、飛びかかる、噛みつく、相手を押さえ込む。
こうした動きには、身体を動かす能力や、狩りにつながる行動を発達させる側面があると考えられています。

さらに、相手がいる遊びには、ひとり遊びとは違った特徴があります。
自分が飛びかかれば、相手が逃げることもある。反撃されることもあれば、遊びをやめてしまうこともある。
つまり、相手が必ずしも自分の思いどおりに動いてくれるわけではありません。
こうした経験は、相手の反応を知り、ほかの猫との関わり方を学ぶ機会になると考えられています。

よく「子猫同士で遊ぶことで、噛む力の加減を覚える」ともいわれます。
実際、相手の反応を通じて遊び方を調整することは十分に考えられますが、どのような経験が、どの程度、噛む力の調節につながるのかについては、まだ明らかでない部分もあります。
それでも、子猫同士の交流が社会的な行動の発達に関わることは、獣医学のガイドラインなどでも重視されています。
あの激しい取っ組み合いも、ただ体力を持て余しているだけではなく、ほかの猫との付き合い方を経験する大切な時間なのかもしれません。

仲良く毛づくろいしていたのに、突然ガブッ?

猫同士のコミュニケーションには、もうひとつ不思議な行動があります。
それが、毛づくろいです。
仲良く舐め合っていたかと思えば、突然、相手に噛みついたり、取っ組み合いが始まったりする。
「さっきまで仲良しだったのに、どうしたの?」
そんな光景を見たことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

2026年、学術誌『Applied Animal Behaviour Science』に、猫同士の毛づくろいを分析した研究が発表されました。
研究チームは、53組、106匹の猫の動画を調べ、毛づくろいが行われる状況を詳しく分析しました。
その結果、毛づくろいには、大きく分けて2つの異なる文脈があることが示されました。

ひとつは、親和的なやり取りです。
猫同士が身体を寄せ合い、似た姿勢でくつろいでいるような場面では、毛づくろいは親しい関係と結びついていると考えられます。
一方で、耳を後ろに向けたり、身体の姿勢が非対称になったり、噛む・叩くといった行動が見られる場合には、社会的な緊張が関係している可能性もあります。

また、毛づくろいのあとに取っ組み合いが始まる場合でも、それが遊びへの移行なのか、緊張の高まりなのかは、周囲の行動も含めて考える必要があります。
つまり、毛づくろいをしているから必ず仲良し、噛みついたから不仲、というほど単純ではないのです。

なお、この研究の対象は1歳以上の猫たちです。子猫にもまったく同じことが当てはまると確認されたわけではありません。
それでも、猫同士の関係を、ひとつの行動だけで判断する難しさが伝わってくる研究ではないでしょうか。

大切なのは、両方の猫を見ること

では、私たち飼い主は、猫同士のじゃれ合いをどのように見守ればよいのでしょうか。
2024年に発表された、猫同士の緊張関係に関する獣医療ガイドラインでも、遊びと喧嘩を見分けることの重要性が取り上げられています。

そこで注目したいのは、片方の猫だけでなく、両方の様子を見ることです。
例えば、次のような点が参考になります。

  • 一方的ではなく、お互いに取っ組み合いをしているか
  • 逃げようとする猫を、もう一方が執拗に追い続けていないか
  • 威嚇する声や、緊張した様子が見られないか
  • 遊びが終わったあと、普段どおりに過ごせているか

大切なのは、ひとつの行動だけで決めつけないこと。
激しく噛み合っていても、お互いに遊んでいる場合があります。反対に、目立った喧嘩がなくても、片方が相手を避け続けているなど、緊張が隠れていることもあります。
もし、一方が繰り返し逃げようとしていたり、強い威嚇や怪我を伴ったりする場合には、無理に遊びを続けさせる必要はありません。

実際に喧嘩になっているときは、素手で間に入らず、段ボールなどで視線を遮り、安全に距離を取らせる方法があります。
猫たち自身のやり取りを尊重しながら、必要なときには人間が手助けする。
そんな距離感が大切なのでしょう。

遊びは、猫同士のコミュニケーション

今日も、預かっている4匹の子猫たちは元気いっぱい。
その激しい取っ組み合いを見ていると、ついつい「もうちょっと穏やかに遊べないものかな」と思ってしまいます。

でも、あの小さな身体で繰り広げられるやり取りには、私たちが見た目だけでは分からない、さまざまな意味があるのかもしれません。
どちらが勝った、負けたではなく、どんなふうに相手と関わっているのか。
そんな視点で眺めてみると、いつものじゃれ合いも、少し違って見えてきそうです。

ところで、子猫たちが遊ぶ相手は、猫同士だけとは限りません。
私たち人間も、よく遊び相手になりますよね。
では、人間の手をおもちゃにして遊ばせるのは、良いことなのでしょうか。
次回は、そんな「猫と人間の遊び」について考えてみたいと思います。

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