~猫にとって「良い遊び」を考える~
現在、ミルクボランティアとして4匹の子猫を預かっています。
遊び盛りの子猫たちは、とにかく動くものに興味津々。目の前で指を動かせば、前足で捕まえようとしたり、飛びついて噛みついたりすることもあります。
小さな前足で一生懸命に手を押さえ、カプッと噛みつく姿は、なんとも愛らしいものです。
でも、猫の飼育について調べると、「人間の手をおもちゃにして遊ばせてはいけない」という助言をよく目にします。
子猫の頃に手で遊ばせると、大人になってから噛み癖がつく、という話もあります。
これは、どこまで科学的に確かめられているのでしょうか。
そして、手を使わなければ、それだけで猫にとって良い遊びになるのでしょうか。
今回は、猫と人間の遊びについて考えてみたいと思います。
なぜ、子猫は人間の手にじゃれつくの?
猫の遊びには、獲物を捕まえるときによく似た行動が含まれています。
動くものを見つめ、身を低くして近づき、飛びかかって捕まえる。前足で押さえたり、噛みついたり、後ろ足で蹴ったりすることもあります。
もちろん、遊びのすべてが狩りの練習というわけではありません。それでも、こうした行動は、猫が本来持っている狩猟に関連した行動と深く結びついています。
人間の手も、子猫にとっては興味を引く動くもののひとつ。
目の前で指を動かされると、思わず追いかけたり、捕まえようとしたりするのは、不思議なことではありません。
ここで知っておきたいのは、噛みつくことが必ずしも怒りや敵意を意味するわけではない、ということです。
ただし、恐怖から身を守ろうとして噛む場合や、触れられることを嫌がって噛む場合もあります。
遊びの中で飛びかかっているのか、怖がって逃げようとしているのか。耳や尻尾の動きだけでなく、その前後の状況も含めて見てあげることが大切です。
手で遊ぶと、噛み癖がつくって本当?
では、なぜ人間の手を使った遊びは避けたほうがよいといわれるのでしょうか。
2013年に発表された猫の環境に関する獣医学ガイドラインでは、人間の手足を遊びに使わないことが推奨されています。
また、2021年の米国動物病院協会などによるガイドラインでも、子猫に手足をおもちゃとして使わせないよう勧めています。
その理由は、猫が手足を遊びの対象として学習し、噛みつきや引っかきによるけがにつながる可能性があるためです。
例えば、人間が指を動かして子猫を誘い、子猫が噛みつくと、さらに指を動かして遊びを続ける。
そんなやり取りを繰り返すうちに、手を追いかけたり噛みついたりする行動が、遊び方のひとつとして定着する可能性があります。
では、実際に手で遊んだ子猫は、大人になると噛み癖がつくのでしょうか。
この点については、少し慎重に考える必要があります。
2026年に発表された猫と人間の遊びに関する博士論文では、103人の飼い主への調査から、手足を使った遊びの経験と、人への噛みつきや引っかきなどの報告との間に関連が見られました。
ただし、これはアンケートによる調査です。手で遊ばせた結果、噛みつくようになったのか、それとも、もともと手にじゃれつく猫だったために、手を使った遊びが増えたのか。
この調査だけでは、原因と結果の関係までは分かりません。
また、論文の全文はまだ公開されておらず、詳しい分析内容までは確認できない状態です。
現時点では、「子猫の頃に手で遊ぶと、成猫になって必ず噛み癖がつく」と証明されているわけではないのです。
とはいえ、猫が人間の手を遊びの標的として覚えてしまう可能性や、成長に伴って噛む力が強くなることを考えれば、最初からおもちゃを使って遊ぶことには十分な理由がありそうです。
手で遊ばないことと、触れ合わないことは違う
ここで、もうひとつ考えておきたいことがあります。
手をおもちゃにしないほうがよいのなら、子猫に手で触れることも控えたほうがよいのでしょうか。
もちろん、そういうわけではありません。
子猫の頃から人間に優しく触れられ、安心できる経験を重ねることは、人間との関係を築くうえでも大切だと考えられています。
2021年には、人間の接し方によって猫の反応がどう変わるかを調べた実験も発表されています。
この研究では、猫が自分から近づくのを待つ、嫌がる様子があれば触れるのをやめる、といった接し方を人間に教えたところ、猫の親和的な行動が増え、人に対する攻撃行動や不快感を示す行動が減少しました。
これは遊びではなく、主に人間との接触について調べた研究ですが、猫の意思を尊重することの大切さを示しています。
つまり、手を使うこと自体が問題なのではなく、手で何をするのか、そして猫がそれをどう受け止めているのかが重要なのですね。
もし、すでに手を噛んで遊ぶようになっている場合は、手を動かして遊びを続けるのではなく、落ち着いて遊びを中断することが勧められています。
そのうえで、噛みつく前に猫じゃらしなどへ注意を向け、遊びの対象を変えていく方法が考えられます。
大声で叱ったり、叩いたりすることは、かえって人間への恐怖につながるおそれがあるため避けたいところです。
手は安心して触れ合うためにも使うもの。
だからこそ、思いきり捕まえたり、噛みついたりする遊びには、別の相手を用意してあげるほうがよさそうです。
遊びは、長ければ長いほどいい?
では、おもちゃを使って遊ぶとして、どのような遊び方が猫にとって望ましいのでしょうか。
2023年、学術誌『Animal Welfare』に、猫の遊びと生活の質について調べた研究が発表されました。
研究チームは、55か国の飼い主1,591人へのアンケートをもとに、猫の遊び方や遊び時間と、生活の質、飼い主との関係などの関連を分析しました。
その結果、興味深いことが分かりました。
猫が普段行っている遊びの種類が多いほど、飼い主が評価した猫の生活の質も高い傾向が見られたのです。
一方、1日に遊ぶ時間の長さについては、生活の質との間に統計的に明確な関連が確認されませんでした。
ただし、遊び時間が長いことは、飼い主との関係の評価が高いこととは関連していました。
また、猫と飼い主のどちらからも遊びを始める関係では、飼い主との関係が良好に評価される傾向も見られました。
もっとも、この研究は飼い主へのアンケートによるものです。
遊びの種類が多いから生活の質が高くなるのか、元気で遊び好きな猫だから多くの遊びを楽しんでいるのか。その因果関係までは分かりません。
また、この研究でいう「遊びの種類」には、人間の手を使った遊びも含まれています。したがって、特定の遊び方が優れていると証明したものでもありません。
それでも、遊びを考える際に、単純な時間の長さだけでは測れないものがあるのかもしれない、という興味深い視点を与えてくれます。
猫にとって「良い遊び」とは?
猫じゃらしを追いかけるのが好きな子もいれば、床を転がるボールに夢中になる子もいます。
物陰から飛び出すおもちゃに反応する子もいれば、同じおもちゃではすぐに興味を失ってしまう子もいるでしょう。
実際、2002年に発表された猫のおもちゃに関する実験では、同じおもちゃで繰り返し遊ぶと反応が弱くなる一方、異なるおもちゃに替えることで、再び活発に遊ぶ様子が確認されています。
遊ばなくなったからといって、遊びそのものに興味がなくなったとは限らないのですね。
おもちゃの種類を替えるだけでなく、動かし方を工夫することもできます。
猫じゃらしを獲物のように動かしてみる。物陰に隠してみる。追いかけるだけで終わらせず、ときには捕まえられるようにする。
こうした工夫は、猫が本来持っている行動を発揮する機会にもなります。
もちろん、おもちゃを誤飲しないように注意することも大切です。特に紐や小さな部品のあるおもちゃは、遊び終わったら片付けるなど、安全面への配慮も必要でしょう。
そして、もうひとつ忘れたくないのが、猫自身の反応です。
夢中になって追いかけているのか。それとも、あまり興味を示していないのか。
もっと遊びたそうにしているのか。そろそろ休みたそうなのか。
猫が自分から遊びに参加でき、やめたいときにはやめられることも、気持ちよく遊ぶための大切な条件ではないでしょうか。
人間の手をおもちゃにしないことは、猫と人間がお互いに安全に暮らすための工夫のひとつです。
けれど、それだけで「良い遊び」が完成するわけではありません。
どんな遊びが好きなのか、どんな動きに興味を示すのか。
猫たちの反応を見ながら、その子に合った楽しみ方を探していく。
それもまた、猫と暮らす楽しさのひとつなのかもしれません。
参考文献・資料
- Ellis, S. L. H., et al.(2013)
AAFP and ISFM Feline Environmental Needs Guidelines.
『Journal of Feline Medicine and Surgery』
https://doi.org/10.1177/1098612X13477537 - Quimby, J., et al.(2021)
2021 AAHA/AAFP Feline Life Stage Guidelines.
『Journal of Feline Medicine and Surgery』
https://doi.org/10.1177/1098612X21993657 - Hecht, J.(2026)
A Cat in the House: An Expert Consensus, Owner Survey, and Ethological Inquiry into Cat-Human Play.
ニューヨーク市立大学大学院博士論文(概要を参照)
https://academicworks.cuny.edu/gc_etds/6700/ - Haywood, C., et al.(2021)
Providing Humans With Practical, Best Practice Handling Guidelines During Human-Cat Interactions Increases Cats’ Affiliative Behaviour and Reduces Aggression and Signs of Conflict.
『Frontiers in Veterinary Science』
https://doi.org/10.3389/fvets.2021.714143 - Henning, J., et al.(2023)
Cats just want to have fun: Associations between play and welfare in domestic cats.
『Animal Welfare』
https://doi.org/10.1017/awf.2023.2 - Hall, S. L., Bradshaw, J. W. S., & Robinson, I. H.(2002)
Object play in adult domestic cats: the roles of habituation and disinhibition.
『Applied Animal Behaviour Science』
https://doi.org/10.1016/S0168-1591(02)00153-3
